暗黙の掟(仮題)
- hntn
- 2018年2月23日
- 読了時間: 10分
どうして僕がまた、こんな危ない目に遭うんだ。 僕が何か、神に背くような真似をしたのだろうか。
日本時間 A.M.5:00 僕は昨日の手紙の憂鬱さから布団から出たくはなかった。 「(早くしないと飛行機に乗り遅れてしまう)」 こんなことなんて考えたくないんだけど、ね…。
イタリア時間A.M.1:24 イタリア・ヴェネチア 斎はベットの上で横にならず、半身を起こしてじっと月を見ていた。 月は皓々と冴えていて、まあるかった。嫌な気持ちすらも浄化してしまいそうな白さだった。 斎は月を見ていた。
すると、扉のほうから静かに声が問いかけてきた。 「眠くないのか」 「…月を眺めていたいんだ、あんなにも白くて眩しいくらいなのに、あんなに静かで神聖なものでいられるのがうらやましいんだ、昔から…」 斎はそう言った。彼は何よりもその月が欲しかったのだ、欲しがっていたのだった。 そしてまた扉のほうから声が聞こえた。 「…朝になれば奴が来るんだ。夜更かしも大概にしろよ…」 斎は相槌を打って声の主は扉の向こうに消えた。 イタリア時間A.M.9:46 到着予定時刻よりも早く着いてしまったようだ。 イタリアに来たのは本当に久しぶりだ。祖国イタリアが危険なところだと知ってからは一度も帰ってきていなかった。確かに食べ物は美味しいし、観光地も綺麗な人たちも多い、嫌いではなかった国だ。でも、父が危険だからと言って父が生まれた日本に移住した。それからイタリアには行ってないし、日本でいろんな人と友達にもなれた。そんな人たちは僕が大学へ行くと行方がわからなくなってしまった…。 いけない、少し話がずれた上にここにじっとしているのも何かもったいない気がする。折角のイタリア(誰だかわからない人から貰って強制されて来たイタリア)なんだし、どこか海の見えるところに行こう。 「すっかり変わっちゃったな…」 タクシーを拾ってヴェネチアのナントカ港に着いた。イタリア語が少しぎこちなくなっていたのに初めて気づいた。僕もすっかり変わってしまった。 色んなことがあったのに、苦労もしたのに、楽しかったこともあったのに…それらが忘れ去られてしまう、そういう不安にかられてしまった。眼下の地中海も何故か濃い青に薄茶色がすこし混じったみたいに見える。 その時だった、急に背後に何かが通り過ぎた。びっくりして何かが行った方向を見てみると僕と似たような鞄を持って走って…あれ…! 迂闊だった、日本の暮らしに慣れすぎていたせいか、ヴェネチアの治安が悪過ぎるのか、もう自分がいけなかったのか、もうもうそんな事は今更後悔しても遅くて…!! 「誰かその人止めてえええ!」 ここはイタリアヴェネチアのはずなのに日本語で叫んでしまった。日本人で助けてくれるような人なんているわけないし、どうせ観光客だし、イタリア語で助けてってどういうんだっけ、ピンチだ、あああもおおお自分で止めるしかない!!っていうかあの人速っ!! 「待て引ったくりーー!!!」 見失わないように追うだけで精一杯だ。これは本当に追いつけるのだろうか…。追いついてみせる、なんてそんな心持ち、今の僕には持てなかった。絶望しか頭になかったその時に引ったくりが角を曲がった。僕も後に続いて曲がった、けれどそれは、僕にとって最も避けたい出来事の始まりだった。 ボフっという音を立てて何か柔らかいものにぶつかった、そしてそのまま僕は尻もちをついてしまった。 「Ehi, è questo compagno un amico di quei compagni?(おう、こいつがピエトラの一味なんだな)」 「(ああ!頼むよ!俺はこれを本部に持ち帰るから)」 早口なイタリア語が引ったくり犯と僕がぶつかった大男二人の口から再生された。こんな早口なイタリア語は経験したことなんてないし、言葉が難しくて何を言っているかわからなかった。けど、明らかに暗雲立ち込める雰囲気が感じられる、ただでさえピンチだったのに。ひとしきり三人の話が終わると引ったくり犯は去って行ってしまった。 後を追わねば… そう思って立ち上がると眼前の大男二人に肩を掴まれ力強く握ってきた。 「いった!!」 僕が痛さで声を上げると大男たちはまた何かざわつき始めた。すこしボリュームが大きくて耳に障るし、あの荷物には財布だったりパスポートだったりが入っているから何としてでも取り返さなきゃいけないし、でもまずこの大男たちをどうにかしなきゃいけない…どうしたら… 「おい」 何処からともなく、呼びかけるイタリア語が聞こえてきた。 大男たちにも聞こえたらしく僕も二人の隙間から声のした方向へ目をやった。そこには水色の髪をして黄色いコートを着た、如何にも目立ちそうな若い青年が立っていた。 僕は何処かで彼を見た気がする。 「Han?Come pivello?(ああ?なんだ青二才?)」 「(おい愚か者め!こいつはピエトラの…!)」 「(…誰が青二才だって?)」 大男と青年が話していると徐々に背筋が凍るような空気に包まれた。そう感じ取ったが、この季節には似つかわしくない氷が…。 「え…?」 見る見るうちに大男の足元が凍っていっている。この状況はどういうこと?自分の目を疑っていると氷は大男たちの膝下までを覆っていた。大男たちは驚きと恐怖の色を帯びた声をあげていた。そうなると、青年はこちらに近づき大男たちに何か耳打ちをした。僕は尻餅をついていた。 青年は不服そうな顔をして大男たちから離れた。すると大男たちの足元の氷は徐々に溶けていった。氷が溶けるやいなや大男たちは足早に逃げ去ってしまった。呆気に取られていた僕はただあとを見つめることしかできなくて、青年が目の前にいたことも忘れてしまっていた。 「Chi(schioccare la lingua)...Fa 'aumentare il fastidio i!Tu davvero sfortunato! (チッ…面倒事増やすな!お前って本当にツイてねーな!)」 「へ?!え…?」 イタリアでいう若者言葉というのだろうか、青年の言葉はわからない語が多くて、僕が一体なんなのか、全くわからなかった。突然言われてびっくりもしたけども。青年の鼻は高く二重もくっきりあるし何より髪は明るい水色で左半分はワックスでなのか後ろへ流れるように固めている、ここの人にしては少々肌が褐色を帯びているが、明らかに日本人ではない。しかもあのように早口で最近の言葉を使うようなイタリア語で話されたら僕は彼に「ありがとう」の言葉しか贈ることができない。 「g…Grazie…(あ、ありがとう)」 思い切って言ってみたが、自信がなかった。目の前の青年は瞳を僕に止めて怪訝そうに 「幼稚なイタリア語だな」 と言った…? 「え?日本…」 僕は驚いて青年の言葉を繰り返し脳内で再生してみた。そして青年の口からはこう続いた。 「10年も経たない内に俺の顔を忘れたのか?」 「へ?」 「お前って本当変わってないよなー平和ボケもいいとこだぜ」 僕は彼を知っているのか…? 「確かに、今と小学生だった俺とじゃ変わったしな」 小学生…。 「っもしかして…あの、ね、ねっくす…くん?」 「おっ!思い出したか、そうだけど?」 「えええ!?嘘だ!?だってNEXくんは…」 僕の記憶のNEXくんは小さくて、触れたら壊れそうで、すごく無口な子で声なんて聞いたか聞いてないかわからなくて…つまりは今目の前のいるような、目立つような髪色でも格好でもそんなことは絶対しないような子だった。しかもこの子はついさっきまで大男たちを恐怖させたような"ワザ"を持っていた。アレは一体…。 「おい、潮風に当たって気分でも悪くなったか~」 「へっ!?い、いやっ、大丈夫…あのっ…一つ聞いてもいい?…ですか?」 「…なに?」 「なんでここにNEXくんがいるの?あっ、ここっていうのはイタリアのことであって…いや、なんで僕を助けてくれたのかなとも思ったけど」 「あー?んー…なんつーか…恩があるんだよ、あとやりたいことがあって…」 そう言うNEXくんの顔は曇ってしまった。何かまずいことでも聞いてしまっただろうか…。 「あっ!いや!言いたくないことだったら言わなくてもいいよ、ごめんね」 いくら大人になったNEXくんだからといって年上の僕が彼をいじめるような真似はしたくないし、何よりもさっきからずっと気になっていることを話題にしたかった。 「そっそれでさ…僕、こっちに来るときに持ってきた荷物を、全部ひったくりに持ってかれちゃったんだよね…アハハ…」 乾いた笑いをあげるとNEXくんは再び水色の目を僕に向けてから、口を開いた。 「それなら、俺と一緒に"いつき"のところに行けばわかるぜ」 「え…?"いつき"って…」 「あ?いいから!早く行こうぜ!」 そう言われて腕を掴まれて身体が傾いた。僕は一体何故、こんなことに遭っているんだろう、僕たちは暗やみの中へ入って行った。 「…あのっ…ま、まだ…着かない…?」 「なにへばってんだよ、まだまだだよ」 「ええー…」 いつの間にか石畳から草むらに変わり、街中とは到底思えない野生の草木が生い茂る場所へと変わっていた。本当に、何かが出てもおかしくない、不気味な林の中だった。さっき僕は"野生の草木"と言ったけれども、その表現は間違っているかもしれない。この林の中は何かがおかしい。不気味だな、とは思ったものの、その不気味さはこの林から感じ取れる違和感から来ているのかもしれない…。 「着いたぞ」 「うわぁっ!?」 「んだよ!いちいちうっせぇ奴だなあ!口もぐぞゴラァ!」 「ひいぃっ!!ごごごごめんなさいいい!!」 僕の叫びは林の中に吸い込まれて、しんとなってからNEXくんはため息をついた。そしてNEXくんが進んだ方向に目をやってみると、そこには荘厳と建つ屋敷があった。 「っ…!」 「どうだ?デカイだろ?ここでみんな暮らしてんだからな」 「えっ…?みんな…?」 「なんだよお前、本当に何もかも聞かされてねえんだな…まあ無理もねえか…」 最後の言葉は小声でよく聞こえなかったが、僕はNEXくんの言葉よりも視覚の情報に目を見張っていた。 三階建ての少し前の古いモデルのイタリアの屋敷、庭もあるし白いヨーロッパ風のイスやテーブルもある、誰かイギリス人でも使うのだろうか。 「…ねえ、NEXくん、さっきのみんなって誰がここにいるの?僕が知ってる人っている?」 さっきの言葉の意味を問いただしたかった。 「え?みんなってのはー…あっ、ほらあそこに一人、お出迎えがいるぜ」 そう半分曖昧にされた気にされ、庭を通り抜けた方に目をやると、黒いスーツに赤いワイシャツを着たすらっとした男性がこちらに走って向かってきた。 「よかった!無事だったんだね!あんまり遅いからこっちが心配しちゃったじゃないかー」 「こいつが歩くの遅いからだよ、俺がヘマやらかすわけないだろ」 「ハハッ!お前はたまに頭に血が上って周りが見えなくなるだろ」 「ぐっ…」 近くで見るとこの男性の目線は高く、まるで少年のようにハキハキと日本語で喋った。その声は昔聞いたことがあった。でも僕の知っている声は少女の面影が漂う声だった、一度聞けば懐かしくも愛おしい気持ちになる。そんな声はやはり僕が大学生になった頃には聞こえなくなっていた。 「どうした?」 「へっ…?僕?」 「うん!久しぶりだね…ゆず、ごめんね、何も言わずに連絡切ったりして…」 「えっ…久しぶりって…」 急に何を言うのだろうか、僕はこの人と知り合いだったのだろうか…? 「こいつ全然俺らのこと覚えてねえんだよ」 「ハハハッ!しょうがないもん、あれから10年くらいは経ってるもん!」 「10年…もしかして…しぶき…?」 「やった!覚えててくれてたんだ!嬉しいよ~ゆず~」 そういうと"しぶき"と思われる人物は僕に抱きつき、キツく締めてきた。 「ぐっ…ぐるじぃ…です…」 「ああっごめん…!」 「はっ…本当に飛沫…なの?」 僕の知っている飛沫は確かに高身長でサバサバした性格だったけれど、男になるなんて聞いたことな…。 「飛沫、お前の10年での成長はおかしいんだよ」 「え?そうかな?ちょっと髪切っただけだよ?」 「そこだけじゃねえよ!俺だってお前久々に見た時"男かと思った"し!」 「ハハハハハハッ!!騙しちゃったか~ごめんごめん!」 「ガキ扱いすんな!!」 そうNEXくんが言うとまた飛沫はお腹から笑った、そしてNEXくんの頭をくしゃくしゃと撫で回した。 「立ち話もなんだし、早く"いつき"に会いに行こ!」 NEXくんが髪を簡単に整えてる横で飛沫が僕を引っ張って屋敷の中へと誘導してくれた屋敷の扉は重く、何か難しいパズルのようにも感じて、開かないのでは…とも思えた。そんな扉を飛沫はいとも簡単に開けて中を見せてくれた。まるで人差し指でボタンを押すだけの力で……えっ!?!?本当に人差し指だけで扉開けてる!?紙みたいな扉なの!? 「こいつの力、まじでヤバイからな…ナメてかかるとイタイ目みるぜ…」 僕が硬直してたら後ろからNEXくんがこっそり呟いた。今後気をつけますと言わんばかりに僕はこくりと頷いた。
まだまだ続くよ 長ったらしい上にさらにはつまらないというか面白みに欠ける話になってしまいそう ゆずくんのこれからの活躍に期待しましょう! イタリア語がわからない…徐々に訳してゆきます
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